ドライアイ・涙点プラグ・マイボーム腺圧出
ドライアイについて
病態について
ここ近年、患者数の増加しているドライアイについて、最近診断基準が変わったことをご存知でしょうか。
ドライアイとは様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴うものです。
原因として、涙液分泌減少、マイボーム腺機能不全、結膜弛緩、クリアランス低下、低湿度、ストレス、コンタクトレンズ装用、点眼液、内服薬、糖尿病、睫毛乱生、外傷、輪部機能低下、手術、閉瞼困難、知覚低下、瞬目減少、炎症等が考えられており、それらにより、涙液が不安定な状態になり症状を起こすものです。
昔からよく知られているものでは、涙液分泌減少型といい、涙の量が少なく黒めに傷があり、涙の量の検査で判定していました。
現在のドライアイの考え方は、眼の表面に傷がある、涙の量が少ない、ということではなく涙液層の安定性の低下が原因であると考えられています。またさらに、涙液層の安定性が低下しているにもかかわらずドライアイの症状を訴えない方もおり、角膜の知覚異常、すなわち角膜の知覚過敏、角膜の知覚低下などが関与しているのではないかと考えられるようになっています。
2006年の診断基準においては、1)涙液異常、2)角結膜上皮障害 および 3)ドライアイ症状の3つを満たしてドライアイ確定例と診断するとなっていましたが、実際には角膜上皮障害がなくても涙液減少型ドライアイと同じぐらいに症状がひどく出る患者さんがいることがわかってきました。これらのドライアイ患者さんは「涙液層破壊時間短縮型ドライアイ」として、2006年の診断基準では、ドライアイの確定診断とならずドライアイ疑い、「涙液異常型ドライアイ」、と診断されてきました。そして「涙液層破壊時間短縮型ドライアイ」はドライアイの患者さんの多くをしめることがわかってきました。また、近年、ドライアイの発症において、以前から指摘されていた、パソコン、コンタクトレンズ、エアコンなどの外的因子以外にも、鬱病、睡眠障害、不幸せ、ストレス障害なども関連することがわかってきました。これらが原因の眼不定愁訴を訴えるドライアイは、おおくは角膜に傷を伴う重症涙液減少症型ドライアイよりも、軽症と考えられてきましたが、症状からすると決して軽症ではなく「涙液層破壊時間短縮型ドライアイ」とも関連することがわかってきました。
さらに、角膜に傷を伴う重症型ドライアイでは視力検査で視力の低下が認められることが多々ありますが、角膜に傷を伴わない「涙液層破壊時間短縮型ドライアイ」でも視機能の低下が引き起こされることもわかってきました。そのメカニズムとして涙液層の安定性低下が関与していると考えられます。
すなわち、ドライアイの本質的異常は、涙の量の検査で調べる涙液分泌機能の低下や、角膜の傷の量よりも、涙液層の安定性低下であることが分かってきました。
そこで、ドライアイの定義ならびに診断基準が見直されました。
診断について
ドライアイの診断は、
1. 自覚症状があること
2. BUT の検査が悪いこと
この二つになりました。
つまり、従来からの涙液水の分泌減少、マイボーム腺機能不全による脂質成分の異常などであれ、涙液層の安定性の低下がドライアイの病態の中心であり、治療は涙液層の安定性の低下を引き起こしている眼表面の不足成分に対して向けられているべきだという考え方になりました。
症状について
- 目が乾く
- 目がゴロゴロする
- まぶしい
- 目に痛みがある
- 視界がかすむ
- まぶたが重たくなる
- 疲れる
- 目が赤い
- なみだがでる
- 目がかゆい
- 眼脂がでる
- なんとなく目に不快感がある
検査について
当院では、ドライアイが疑われる方に下記の検査を行っています。初診時に全ての検査を行う場合もあれば、治療の経過をみながら検査をしていく場合もあります。
視力(とくに日常生活での視環境の確認) ドライアイの症状を訴える方の多くが、パソコンのお仕事をしています。視力というと、遠くがよく見えるとよいという感覚がありますが、近くの作業が多いかたには一概にそうとも言えません。普段どのような度数のコンタクトレンズやメガネを使用されているのか、等を確認させいていただきます。また、ドライアイの程度によっては視力にぶれがでることもありますので、こちらも合わせて検査します。
角膜の傷の検査 目の表面を染めて検査します。
涙の質の検査 目の表面を染めて検査します。
涙の量の検査 目に紙をはさんで、涙の基礎分泌を調べます。プラグの治療を早めに検討したほうがいいのかの判断になります。
結膜の炎症の状態 炎症性のドライアイの程度を確認します。
マイボーム腺の状態 マイボーム腺からの油がきちんと出ているのか等を調べます。必要があれば、マイボーム線圧出(※下記詳細)も行います。
ドライアイを起こす全身疾患有無の検査 シェーグレン症候群や甲状腺の病気、また、他の病気での内服薬等による副作用など。必要時に確認します。
眼瞼痙攣初期の検査 ドライアイの治療をしているのに良くならない方のなかに、眼瞼痙攣の初期であることがあります。痙攣と聞くと、ピクピクするものと思われている方もいますが、ピクピクはしません。
治療について
当院ではドライアイの検査を行い、ドライアイのタイプにより、下記の治療をおこなっています。
- 角膜上皮障害治療点眼薬
- 低濃度のステロイド点眼、抗炎症剤の点眼
- 水分の分泌、ムチンの分泌を促す点眼薬
- ムチンの分泌、粘膜の修復、保護を促す点眼薬
- 眼軟膏の点入
- 液体コラーゲンプラグの注入
- シリコン製涙点プラグの装着
- マイボーム腺の圧出
プラグ治療について
涙点プラグ挿入術という手術になります。固体のシリコンプラグ、液体のコラーゲンプラグ、各々に長所と短所があります。術前にどちらにするのかご相談させていただきます。
シリコンプラグ
- メリット 効果が出やすい。涙点は右左目各々に上下1ずつ、計4涙点あります。右、左各々1涙点ずつ、計2涙点でもそれなりの効果が期待できます。平均7ヶ月程度で自然に抜けてしまいますが、何年も問題なく使用できることもあります。
- デメリット 固体の異物をいれるため、白目にあたり、充血や、ごろごろすることがあります。術後数日で抜けてしまうこともあります。迷入したり、肉芽を作ったりします。
コラーゲンプラグ
- メリット 液体を固めるので、白目にあたり充血することはありません。
- デメリット 右、左各々1涙点ずつ、計2涙点では効果がほとんど期待できませんので、当初から右左目各々に上下1ずつ、計4涙点の手術を勧めています。また、日々溶けて効果が弱くなり、2から3ヶ月程度で効果がなくなってしまいます。反復の施術が必要となります。
涙点プラグ挿入術は適応があれば、当日に外来での施行が可能です(在庫がない場合は後日の施術となります。事前に電話にて問い合わせ下さい)。
術後から、出血や腫れなどはなく、コンタクトレンズの使用なども通常どおりです。ただし、シリコンプラグに関しては、患者様の涙点の状態により挿入プラグのサイズが変わります。通常のサイズより極端に大きい、または小さいサイズだということが術前検査で分かった場合は、適切なサイズのプラグを取り寄せることになりますので、後日の施術になる可能性がありますこと、ご了承ください。
プラグ挿入術施術料(シリコンプラグ、コラーゲンプラグとも同料金)↓下記、1涙点の場合
涙点プラグ挿入術(1割負担) 1100円
涙点プラグ挿入術(3割負担) 3300円
別途、検査、診察、薬代。
※マイボーム腺の圧出とは
睫毛の根元より少し内側の目の中にふれている部分にマイボーム線という油が出る腺が開口しています。ドライアイや、結膜炎等が原因で油がつまり出にくくなっていることがあります。マイボーム腺から出る油は、ムチンと同様、涙の質の向上に大事な成分です。何らかの原因で長年かけてマイボーム腺が詰まってしまっていることが多いので、一回の圧出や短期間の点眼治療等ですぐに治ることはありません。根気よく治療を続ける必要があります。当院では、ドライアイの原因にマイボーム線の関与している可能性のある方には、マイボーム腺を圧し、マイボーム腺の状態を確認し、診断的治療をしています。診察時には、マイボーム腺圧出をし、ご自宅では温めや洗浄、粘膜保護の点眼等をしていただきます。